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勝手に離婚届を出したことについて損害賠償が認められた事例

離婚届を勝手に出して無効となるケースは、ほとんどが相手の署名押印欄を勝手に書いて提出してるケースですが、署名押印したのは本人だけれども、勝手に提出したことを理由に離婚が無効とされて損害賠償請求が認められた事例をご紹介します。

前提として知っておいていただきたい点が2つあります。

一つは、離婚が有効となるのは、離婚時に離婚の意思がある場合だということです。

離婚届を書いた時に離婚意思があっても、離婚届を出す時に離婚意思がなくなっていた場合には、その離婚届は無効です。

ときどき、●年後に離婚するという離婚協議書を作りたいというご相談がありますが、そのような離婚協議書を作っても、●年後に当然に離婚できるわけではありません。

もう一つは、離婚が無効だという主張と、損害賠償を請求するのとでは、法律上手続が違うということです。

離婚無効は、家庭裁判所に調停を申立て、調停が不成立となった場合は、家庭裁判所に離婚無効確認訴訟を提起します。

損害賠償請求は、離婚が無効であることを前提に、地方裁判所(金額によっては簡易裁判所)に損害賠償請求訴訟を提起します。

今回ご紹介するのは、損害賠償請求の方の裁判例です。

離婚無効確認訴訟は、公刊物に掲載されていないため詳細が分かりませんが、損害賠償請求の方で離婚無効に言及しているので、おおよその事情は分かると思います。

1 事案の概要

・2009年8月8日   結婚
・2013年       長女誕生
・2014年       長男誕生
・2017年9月17日  長女の習い事の送迎がきっかけでケンカ、夫が離婚届を取ってきて妻に渡す。妻は署名押印し、長男の親権者を夫、長女の親権者を母として夫に交付する。
・2017年9月18日  妻が夫に対し電話をかけ、その後、夫からの折り返し電話の際に、夫が何処にいるのか尋ね、早く家に帰ってくるように言う。夫は、京都の実家に帰る旨を告げる。
・2017年9月20日  夫が長女の親権を夫と書き変えて離婚届提出
・2017年11月15日 妻がさいたま家裁越谷支部に離婚無効確認調停申し立て
・2018年2月27日  調停不成立により、妻が離婚無効確認訴訟を提起
・2019年3月27日  さいたま家裁越谷支部が離婚を無効とする判決、夫控訴
・2019年9月18日  東京高裁が控訴棄却判決、上告期間経過により離婚無効判決が確定
・2020年       妻が、東京地方裁判所に、夫が離婚届を勝手に出したこと、子供を勝手に連れ去ったことなどを理由に損害賠償請求訴訟を提起(本件)
・2022年3月28日  東京地裁が損害賠償を認める判決、夫が控訴するが、その後控訴を取下げ

2 判決の概要

東京家庭裁判所は、妻を原告、夫を被告として、以下の通り判示しました。

⑴ 離婚届けを勝手に出したことについて

「原告が、被告との間で事後の具体的な生活についての話し合いもせずに、離婚届用紙に署名押印したのは、当日の口論の勢いの赴くままに激情に駆られてのことであったと考えられ、このことは、離婚無効確認訴訟の控訴審判決(甲3)においても指摘されているところである。このような状況下において上記の署名押印がされたことに加え、翌日の電話での会話の中で、原告が被告に対し、早く帰ってくるようにという、離婚の意思とはおよそ矛盾する言葉を発していたことからすれば、被告において原告に離婚の意思がないことに気付く契機は与えられていたというべきであり、そうであるにもかかわらず、原告の真意を確認することなく本件離婚の届出をしたのであるから、被告には無効な本件離婚の届出をしたことについて過失があるというべきである。そして、本件離婚が原告の離婚意思を欠いて無効であるということになれば、被告が子らを原告の下から連れ去ったこともまた法的な根拠を失うことになるから、被告は、上記の過失により、原告の妻としての地位を不安定な状態におくことによってこれを侵害したのみならず、原告の子らに対する親権をも侵害したものということができる。したがって、被告は、原告に対し、これらの権利侵害によって原告の被った損害を賠償する責任を負うというべきである。」
「原告にも、離婚届用紙に署名押印して被告に交付した過失及び自宅を出た被告と連絡がとれたにもかかわらず離婚意思のないことを明確に伝えなかった過失が認められるから、これらを考慮して50%の過失相殺を施すのが相当であ」る。

⑵ 子どもを勝手に連れ去ったことについて

「本件離婚が原告の離婚意思を欠いて無効であるということになれば、被告が子らを原告の下から連れ去ったこともまた法的な根拠を失ったことになるから、被告は上記の過失により原告の妻としての地位を不安定な状態におくことによってこれを侵害したのみならず、原告の子らに対する親権をも侵害したものということが出来る。」

⑶ 損害額について

上記⑴⑵の損害額としては、慰謝料200万円、弁護士費用93万8000円を認めたうえで、過失相殺で半額の146万9000円としました。

3 コメント

上記2⑴のとおり、離婚が無効である理由として、判決は、以下の2点を指摘しています。

①事後の具体的な生活についての話し合いもせずに、離婚届用紙に署名押印したのは、当日の口論の勢いの赴くままに激情に駆られてのこと
②電話での会話の中で、原告が被告に対し、早く帰ってくるようにという、離婚の意思とはおよそ矛盾する言葉を発していた

しかし、①については、離婚後の生活の話し合いをせずに離婚をすることも、ケンカの勢いで実際に離婚までしてしまうことも、どちらもよくあることなので、これを理由に離婚が無効だと言われたら、たまったものはじゃないなという感想です。

②は、確かに、妻は、離婚しない意思をほのめかしているのですが、他方で判決は、妻には、夫に「連絡がとれたにもかかわらず離婚意思のないことを明確に伝えなかった過失が認められる」ともしており、②だけで離婚意思がないと分かるはずだとまで言い切っていいんだろうかという感想です。

本件に先だって、東京高裁で離婚無効判決が確定しているので、この点の認定が荒くなったのかもしれませんが、離婚無効を認める判決としては、認定が粗すぎるように思います。

また、夫による子供の連れ去りについて、離婚が無効だから、勝手に子供を連れ去ったのは違法だとしていますが、この点も一般的な判断とは異なります。

別居に伴う子供の連れ去りに関する裁判例はいくつもありますが、これまでの裁判例は、別居に伴って子供を連れて行くのは、その連れ出し方によほどの問題がない限り違法ではないとしています。

そうだとすれば、本件で離婚が無効となっても、夫は別居にあたって子供を連れて行っただけなので、原則として法にはならないはずです。

別居のあり方について、裁判所として方針を変更する、あるいはこれまでの裁判所の方針に一石を投じる判決を書くんだという意図なら分からなくもないんですが、どうもこの裁判例を読むとそこまでの意欲をもって認定したようには思えません。

さらに、この判決では、実際にかかった弁護費用をすべて損害として認めていますが、多くの裁判例は、損害額の1割を弁護費用として認めているのに対し、かなり珍しい裁判例です。

この裁判例を一般化していいのかというと、かなり怪しいと考えますが、間違いなく本人が書いた離婚届を出したら、それは無効だと言われた珍しい事例ですので参考としてご紹介します。

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