面会交流が父母の不仲を理由に制限された裁判例
父母が不仲であることが、子供との面会交流に影響するのでしょうか?
面会交流は、離れてくらす親(「非監護親(ひかんごしん)」といいます)と子供の間の話なのだから、(元)夫婦の話は関係ないんじゃないの?と思うかもしれませんが、(元)夫婦の関係悪化を理由に、直接の面会交流が認められない場合があります。
そのような例として、大阪高等裁判所令和元年11月20日決定をご紹介します。
【裁判例の概要】
大阪高等裁判所令和元年11月20日決定は、同居中の夫婦げんかの末に、父親(夫)が激高して包丁を持ち出すなどのことがあり、母親(妻)が父親に対して極度の恐怖心を抱いていることを理由に、父親と子供との直接的な交流を認めずに、写真や手紙のやり取りという間接的な交流だけを認めました。
【解説】
1 大阪高裁が面会交流を制限した理論構成
面会交流は、一般的には、離れて暮らす親子の交流を深め、子供の健全な発達にとってよいこととされているものですから、子供の利益に反する結果を招くような事情がない限りは、直接的な交流が認められるのが一般的です。
子供の利益に反する事情というのは、例えば、過去に子供に対する虐待があった場合や、子供の連れ去りが考えられる場合などです。
上記の大阪高裁決定は、子供の虐待や連れ去りの事例ではないにも関わらず、面会交流を制限していますが、その理由を次のように説明しています。
監護親と非監護親との間に最低限度の信頼関係がない中で、無理に面会交流を実施すると、子供と生活をしている監護親がストレスを抱えてしまう。
そして、監護親のストレスが子供にも伝わってしまい、子供が、両親の間で板挟みとなってストレスを抱えたり、一緒に生活をしている監護親との関係で混乱したりしてしまう。
これは、子供の利益に反する。
2 暴力が理由でない夫婦間の不仲による面会交流制限の可否
夫婦のどちらかが一方的に悪いというわけではないけれども、顔を合わせるだけで、うつ状態になったり、体調を崩したりしてしまう場合は、それを理由に子供との面会交流の制限が認められるでしょうか?
非監護親からすると、無茶苦茶じゃないかと思うかもしれませんが、大阪高裁の理屈からすると、直接の交流は制限される可能性があります。
3 父母の対立が激しい場合の現実的対応
夫婦間の対立が激しい場合は面会交流が制限されてしまうことがあるとすれば、非監護親はどのように子供との関わり合いを築いていけばいいのでしょうか?
監護親と非監護親が顔を合わせないかたちであれば、監護親への負担が軽減できますので、第三者機関を利用する面会交流を検討することになります。
先ほどの大阪高裁の理由を見ると、「面会交流の立会いを引き受ける第三者機関が存在するかどうかなども明らかでない」と書いてありますので、非監護親からこのような主張があれば、直接の交流が認められる可能性もあったように感じられます。
もっとも、例えば、FPIC(エフピック)という代表的な第三者機関を利用する場合、1回につき1~3万円の費用がかかります。
この費用は、大阪高裁のように非監護親に帰責性がある場合には、非監護親の負担とすべきでしょうが、どちらかが一方的に悪いといえないケースでは、双方で折半するということも考えられます。
第三者機関を利用することに納得ができない場合もあるかもしれませんが、夫婦間の対立が激しい事案では、このようなかたちでの面会交流を検討しておかないと、厳しい審判が出される可能性があります。
【関連コラム】
・面会交流が制限される場合
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。