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離婚時に、親権を持つことになった妻側が、子供とともに夫名義の家に居住し続け、夫は養育費代わりに自宅のローンを支払い続けるという合意を時々見かけます。
その際に、ローンを支払っている場合には、養育費についてローン相当額を減額するという離婚協議書(公正証書)を作ってしまったために、その後の事情変更による養育費の減額が認められなかったという裁判例をご紹介します。
申立人(元夫)と相手方(元妻)には3人の子がいましたが、平成28年に離婚し、離婚にあたり、以下の内容の公正証書を作成しました(要約であり、実際の公正証書文言とは異なります)。
・2条(養育費)
1項 1人当たり5万円、20歳になった後の最初の3月まで
2項 住宅ローン10万円を支払っている間は、その支払い金額を養育費から差し引く
・3条(住居の取り扱い)
1項 元夫は、元夫名義の自宅を元妻らが無償使用することを認める。
2項 元夫は、住宅ローン月額10万円を完済するまで支払う
3項 ローンを完済したら、自宅の名義は元妻にする
4項 2条の養育費の支払いが一部または全部完了した後も本条第2項記載の住宅ローンの支払が残存している場合は、同住宅ローン又は第2条記載の養育費の金額を超える部分の住宅ローンは、元妻が支払う
上記合意の2年後、元夫が収入減と再婚相手の連れ子を養子にしたこと、再婚相手との間に子供ができたことを理由に、養育費減額調停を申立てました。
本件公正証書は・・・単に養育費の額を定めるにとどまらず、離婚に伴う様々な事項に関する取り決めをした複雑なものである。確かに、その2条1項において、未成年者らの養育費を月額5万円ずつ(3人分合計で月額15万円)と定めているものの、同上2項において本件差引条項が定められ、相手方が住宅ローン月額10万円を支払っている場合には、その支払額を養育費から差し引くものとされているのであり、これらの条項は不可分一体のものとなっていると解するのが相当である。また、本件公正証書が作成された当時から現在に至るまで、上記住宅ローン月額10万円は、実際に支払われるものと考えられ、現に支払われてきているというべきであるから、・・・本件公正証書による合意の真の意味は、未成年者らの養育監護に使用されている実際の養育費としては、上記住宅ローン月額10万円相当を除いた、月額5万円を抗告人に支払うことを約するものと解するのが相当である。
そうすると、不可分一体というべき上記各条項につき、住宅ローンの支払に関する条項については、本来、家事審判事項とはいえず、本件において変更することは許されないというべきであるから、養育費の月額のみを一方的に変更することは不当な結果を導くことになり、相当でない。また、上記のとおり、本件公正証書において合意された実際の養育費は、未成年者3名で月額5万円であったと解した場合でも、相手方の主張する事情変更を前提にして前記標準的な養育費の算定方式に基づき試算した養育費の額は、未成年者3名で合計月額7万8000円となるのであるから・・・、養育費の減額が認められる余地はない。
この裁判例を読んで最初に感じたのは、「公正証書の意味が分からない」です。
おそらく、もともとは、自宅を元妻のものとし、ローンも元妻が負担し、養育費は1人当たり5万円としたかったけれども、元妻の経済力ではローンの借り換えができなかったため、何とかしようとして、このようなヘンな合意をし、公正証書化したのでしょう。
そのために、裁判所から、公正証書の各条項が不可分一体とされ、その一部を変更するのは相当でないという判断をされてしまうことになりました。
シンプルな内容の離婚協議書であれば、ご本人でも問題なく作成はできると思いますが、複雑な内容になると、各条項の整合性や適法性なども考えなければならず、下手に作ると無効になったり、本来の意図と違うものとなったりしかねません。
公正証書は、公証役場で、公証人が作成するものですが、公証人は検察官、裁判官、法務官僚の天下り先です。
元裁判官の公証人に当たれば、法的な有効性について指摘してくれることもありますが、元検察官、元法務官僚は、民事の複雑な問題についてよくわかっておらず、当事者の言うがままに作成することもよくあります。
離婚協議書を作成する場合は、離婚問題について取り扱い経験豊富な弁護士にご相談することをお勧めします。
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